小雨の井の頭通り

実際の人物はフィクションです

◆日比谷オールコレクト

天気は概ね晴れ

夏休みが終わってしまったのが悔しくて、「俺たちの夏はこれからだ!」とか打ち切り漫画のようなことを言っている。過ぎ行く夏に追いつくために今日は2人揃ってスニーカーで外へ出た。
行き先は日比谷だ。


うちから日比谷へはアクセスが悪い。
だがそこはやはり港区、三歩歩けば何かしらの駅にぶち当たる立地の素晴らしさ。
最速のルートをネットでサーフィンした結果、我々が降り立つ駅はJR山手線有楽町駅となった。有楽町駅B2出口を抜けると、幅の広い道に出る。どことなく表参道っぽい。

*(道の写真)

日比谷の良いところ第4位は道が広いところ。第3位は空が高いところで、あとは忘れた。

駅を抜け出し緑の多い場所に向かって歩く。毎度のごとく地図は見ない。見れないのではなく、見ない。上流階級の我々なので。とかいっているとすぐ目的地に着いた。

*(日比谷公園入り口の写真)

日比谷公園では毎週何かしらイベントが行われている。つまり悩んだら日比谷公園までくれば困らず、日比谷公園に住めれば年がら年中遊べるというわけだ。

現在行われているのは「ドイツオクトーバーフフェスト」ドイツの食べ物(ほぼソーセージのみ)とドイツの飲み物(ほぼビールのみ)を可愛い女の子が提供してくれ、5回行けばドイツ人国籍が与えられるというアレ。

実際もう5年くらいは来ているイベントなので、ドイツ人ということになっている我々は2人揃って「ふーん、今年はこういう感じね」とか「あー、ミュンヘンの香りするわー」なんていいつつ座り場所を探してウロウロ。オクトーバーフェストは座ればさえすれば勝ち確というガバガバイベントのため、当然血眼で空いているベンチを探さねばならない。

途中この世で1番巨大と思われるビールジョッキに並々ビールを注ぎ、割高なアルコールを摂取していると彼女がテーブルを片付けて離席しようとしているカップルに声をかけて無事本部ベースを確保。その称賛極まる行動の勲章として僕がソーセージとプレッツェルを奢ることになった。苦しゅうない。

*(奢ったとされるソーセージとプレッツェル)

ビール、ソーセージ、ビール、ソーセージ、水、ビール、ビール、ソーセージの順でドイツを噛み締めていると長居をし過ぎてしまった。そろそろ離脱を決め込もうかとテーブル中の飲食物を吸引し席を立とうとすると背の高い男性に「ここ良いですか」と声をかけられた。我々はすっかりドイツ人なのでジョッキを掲げて「もちろん!」と胸を張ったら怪訝な顔をされた。この場合正しいのは我々である。

*(掲げたジョッキ)

座席リザーブリサイクルも済ませて、日比谷公園から無事釈放。 
酔拳ばりの千鳥足で我々が向かった先は最近リニューアルされた「日比谷シャンテ」。

*(シャンテ外観の写真)

そう、シャンテでおシャンテに決めちまおう、という腹づもりな訳である。

シャンテ1Fには質の良い結婚式でもらえる引き出物ランキング第1位のバームクーヘンでお馴染みキハチのカフェがある。
ここで優雅なアフタヌーンティーと勤しむのが我々の目的であった。が、想像以上の激混み。皆考えることが同じなのか、「行列よ夢、幻であれ!」と願ったものの叶うことはなく人はそのまま人だった。まあしょうがない、椅子もあるし酔い覚ましも兼ねて並ぼうかとぼやぼやしていると20分ほどであっさり店内へ。
二人がけのテーブルに案内され、さっと僕がトイレ側に座る。どうだろう、我ながらこういうところが紳士だと思っている。
彼女はそんな配慮も意に介さずメニューを決めにかかっている。
どう考えても満腹の我々であり、この後のディナーのことを考えるとここで重めを攻めたくないものだが。。。

*(フルーツサンドの写真)
*(スフレ的な何かの写真)

このザマである。でも我々は許される、なぜならオトナだから。そしてカロリーは美味しさの単位だ。
流石にお酒は控えてコーヒーとアイスティーにしたので、トータルでゼロカロリーでもある。いや、むしろマイだ。

しばらくのもぐもぐタイム。ここで談笑をしないところが我々のいいところ。
オトナにとって食事とは地球との「対話」。茶化してしまっては野暮なのだ。
しばしの「対話」を終え、まさにティーブレイク。
エモいって言葉はエモくないとか、借りぐらしが丁寧な生活の集大成とか、無印のバターチキンカレーで店が開けるとかそんな話をしていたらすっかり日も暮れ始めて来た。これはいかん夏が終わってしまうと席をたちシャンテ内をぐーるぐる。買い物をチョチョイと終え、シャンテを後にする。

シャンテを出て徒歩3歩で次の目的地、新進気鋭のニューカマー「日比谷ミッドタウン」に到着する。
ここのメインミッションは先に予約済みである映画を鑑賞することだ。先に予約を済ませてある、というところがかなりスマートポイントが高い。スマートさでいえばイギリス紳士が女性の涙を清潔なハンケチで拭うほどのスマートさに匹敵する。スマート2万点だ。

映画上映まで程よく時間が空いているのでミッドタウン探検に出るかと3Fをうろいていると立ち飲み屋がある。
ハイソな商業施設に立ち飲み屋があることに脳がバグりかけていたため、思考をしないまま脊髄反射でのれんを潜ってしまった。
いわゆる割烹的な立ち位置の飲み屋らしい。

*(三ぶんの写真)

小料理屋なので当たり前にお通しが出て来たのが苦しい。もう井の中がドイツやらイタリアやらジャポンやら多国籍が過ぎた。
しかしオトナなのできっちり味わう、そしてあっさりしていて美味しい。日本酒が加速する。
うおーこれはいかん、と彼女が横で唸っている。彼女は起立しながら酒を飲むと普段の3倍の速さでダメになるのである。これがシャアだったら赤い彗星に乗せて宇宙戦争に参戦であるが一般市民であるため、早めにお冷でクールダウン。しばし静粛に、アルコール分解に集中しているようであった。
そうこうしていると映画までの猶予がなくなってくる。サクッと会計を済ませ(スマート4万点だ)4FのTOHOシネマズへ。
満を持してオーシャンズ8を鑑賞してみせた。(アンハサウェイが至高の極みでした。)

劇場を出ると外はもう真っ暗、夜更けが迫って来ていた。
今日ももう終わる、非常に満ちた1日ではあったが、まだ終わりにはさせたくない。
彼女とぽてぽてと日比谷の街を有楽町に向かって歩く。道路看板をみて、少し折れれば銀座でたどり着くことを知った。
これはもう宵闇通り探検隊としては行ってみるしかない。終電も調べていなかったが東京都民は課金でタクシーが使える。気を大きくして銀座方面へ歩みを進めた。

だが結果として、我々が銀座へたどり着くことはない。それはなぜか、これを見つけてしまったからだ。

*(東宝ダンスホールの入り口)

ワクワクが止まらない。強いやつと出会った時の悟空もこんな感じなのだろうか。
とりあえず入ってみた。

*(ダンスホール内の開けたフロアの写真)

あーこれはもうしょうがない。こうなってしまったら踊るしかない。だってダンスホールだし。
休日の夜でなのか、いつもこうなのか、人もまばらなダンスホールをスニーカーで2人かける。
いつか観た古い映画のダンスシーンを真似して観たり、片膝ついてダンスはいかが?とか言ってみたり。
初めてドッグランに来た大型犬よりもはしゃいだ。それはもうしょうがないくらいはしゃいだ。ダンスホールだもの。

*(ダンスホールのなんか素敵な写真)

しかし肺活量は酔っ払い20代半ばの人間のそれ、正味30分が限界で立てなくなった。ダンスホールを滑り転がる時間が続く。

*(ダンスホールを転がってブレブレになっている写真)

お互い心に白旗が上がり、お店の人に頭を下げて退室した。

外へ出る。
頭も心も体もぽっかぽかになった。蒸し暑い9月の天気には適していない。
これ以上外気に晒されるのも勘弁ということで、銀座への殴り込みはまた今度ということにして今日は閉店ガラガラにすることなった。

来た道を戻り、有楽町駅へ戻る。終電を調べるとちょうど乗れそうな時間だった。
オトナとして胸を張れる、非常に良い休日のワンシーン。

軽い気持ちで来た日比谷にはなんでもかんでもあった。
そしてそれが近い距離でぎゅっとあったのも素晴らしかった。日比谷の良いところランキングを更新しなければならない。
これほどまでに綺麗に駒を進められたのも、日比谷の完成度が高いからだろう。

日比谷はすべてを解消してくれる。日比谷がすべてを解消してくれた。すごく助かるありがとう日比谷。