小雨の井の頭通り

実際の人物はフィクションです

■ウエノ行脚2019

 我々のデートにはいくつか決まりがあるのだが、その中にこんなルールがある。

「(行き先は)肩肘を張らないところ」

このルール、一見するとお互いが心地よく遊びを楽しめるように設けてある良いものに聞こえるが、このルールに縛られすぎてしまうと冒険ができないということになりかねない。我々は常に緊張と緩和の絶妙な間を目指し外出を試みる。
今日はそんなルールというを脅かしかねない場所へ”チャレンジ”をして乗り込んだ。
行き先は、上野である。

 なぜ上野が「肩肘張るところ」になりかねないのか。
それは上野にはあらゆる文化が集っているからだ。上野駅を出てしばらく歩くとまず上野恩賜公園に辿り着く。ものすごい広さだ。

※公園広場の写真

そして上野恩賜公園はその広大な敷地に中にありとあらゆるものを揃えている。その1、東京国立博物館、その2、都立美術館、その3、上野動物園。さらに少し歩けば東京芸大もある。バケモノみたいに文化が集まっているその公園の中心にあるスタバのオシャレなことオシャレなこと。

スターバックス上野公園店の写真

びっくりするほど行列ができている。なんだろうあのスタバの奥にはトイストーリーマニアでもあるのだろうか。

「ここは選択の時だね」と彼女が横で眉間にしわを寄せている。

どういうこと?と聞き返すと、
「ここでスタバに迎合するかどうかで我々のスタンスが決まるんだよワトソン君」
いつから僕の彼女はホームズになったのか、
おそらく最近読んでいる漫画の影響だろうが、確かにその言葉には説得力があった。
ここでスタバに興じる事が出来れば僕たちはその後何食わぬ顔して美術館をはーとかふーんとか言いながら見て回り、人生観がどうとか言って帰路につくだろう。
しかしそれは僕らのデートと言えるのだろうか。
二人して怪訝な顔をしてスタバを睨んでいると、彼女が右手方向を見て声をあげた。
「あ、でも向こうにおしるこあるって」「オッケーGOだ」
我々はスタバを一蹴してすぐ近くの売店にでおしるこを飲んだ。これがジャパニーズフラペチーノ(絶対違う)。

 そもそも我々は美術館が苦手だ。
というのも、各作品をどれくらい眺めていいかもわからないし、理解してる風な雰囲気でカッコつけてしまったり、あまりに早く観終わってしまうとなんとなく損した気持ちになる。最終的には絵を観ながら勝手にタイトル大喜利を始めたりしてかなり浮くからだ。
だからこそ、この上野という地に集まっている文化に対しどういう姿勢で臨めばいいのか混乱してしまうのだ。
世の美術館デートをしているカップルたちはどうしているのだろう。みんなイギリス出身なのかな?
美術館に億劫になっている我々が上野公園をふらついていれば当然ここにたどり着く。

上野動物園の写真

「私動物園来るたびに思うんだけど、動物園ってすごい怖いよね」
園内に入ってフクロウを見ながら彼女がいう。
「なんか人のエゴというさ、鑑賞させよう感がすごい」
「まあ確かに、引きでみると結構な強引さがあるよね」
「あと動物園に入ってしまったことで、我々も(人間)という動物として閉じ込められてしまったという感覚に陥る」
「最近猿の惑星でもみたの?」
…なぜかものすごい暗い鑑賞の仕方をしてしまった。
上野は晴天というのに。動物園は盛況で人も多い、なかでもとりわけパンダ舎はとんでもなかった。ウッドストックでもやるのかとばかりの混雑具合。
彼女も僕もそこそこ気疲れをしていたので、行列を背にしてYouTubeでシャンシャンを観て満足した。

 上野動物園を後にし、次に向かったのは東京国立博物館、通称トーハクだ。
そこそこな値段の入館料をわざわざ払ってでも、ここには来たかった。
なぜならここは期間限定で様々なイベントを行っており、今日はその中でも稀有なビアガーデンイベントが執り行われているからだ。

※トーハクビアガーデンの様子

トーハクの面白いところは、特に展示にこだわる事なく唐突にイベントを繰り広げるところだ。秋口には野外シネマ上映会なども行なっている。
我々は博物館の鑑賞をものの15分で終え(主にハニワの命名を行なっていた)、中庭で展開されているビアガーデンゾーンへ急ぐ。
都立中学のグラウンドくらいの広さにベンチやテーブル、椅子などが雑多に置かれており、皆各々のスタイルで麦酒を飲んでいる。
とりわけ目立っていたのが、英国紳士らしき男性二人がテーブルでチェスをしながら飲んでいた事だろう。今日いちで”文化”を目で見た気がした。
彼女が我々も将棋を持ってくるべきだった、とか言っていたが僕たちは将棋のルールを知らないのにどうするつもりなのと聞いたら「お互いにずっと長考する」と言っていた。ルールに悩んでどうする。

座れるテーブルが空いていなかったので、スタンドテーブルで立ち飲みをしていたらおじさんがこちらに興味を持ったらしく話しかけてきた。
10分ほど世間話をしていたがお互いに会話の引き出しがわかりやすく空になり無言。沈黙に耐えかねた僕が離席を申し込んで彼女とともに戦線を離脱した。
トーハクを退場しながらお互いに先ほどのコミュニケーションの反省に入る。気持ちが落ち込む一行。
ぽてぽてと上野公園を進んでいくと、芸大の正門に行き当たる。
二人でなんとなく顔を見合わせ頷く。
気持ちが沈んでいる時にこそ、”冒険”が必要なのだ。

満を辞して芸大に侵入する。休日の夕方ではあったが、芸大にはまばらに人がいた。製作をしている人がいるだろう。
芸大内を散策。開始10分くらいで罪悪感もなくなり、我々は留年をしている芸大生をいう設定にすっかり楽しみを見出していた。
進藤先生の講義はほぼWikipediaの読み上げだ、とかゼミの米沢は伊集院のラジオのフリートークを自身の話として話しているだけ、とか概ね悪口なあたり、芸大生への偏見がみられた。

※芸大の時計台の写真

お互いにろくにものを食べていなかったので小腹が空いてきた。
食堂や売店を探してみたが、当然休日のためやっていない。
というかそもそも我々には買う権利がない。

芸大を後にし、お腹を満たそうと上野をウロウロ。
その過程で上野公園の逆方向にかのアメ横があるということを知り、急行することにした。(僕はアメ横巣鴨にあると思っていたので上野にあるという事実に腰を抜かし、彼女にかなりバカにされたのだが腹がたつので割愛)
アメ横に向かう途中、異質なものに出会う。

地獄の門の写真

ロダン地獄の門だ。道端にロダン地獄の門があることがなぜかすごく面白く、ニヤニヤしながら彼女と近づいた。

地獄の門接写

近くで見ると結構ディティールが細かい。そしてかなり重い。地獄の門とタイトルがつくだけはある。
彼女は僕の携帯で地獄の門の写真をかなり撮影し、なぜかロック画面にしていた。「iPhoneを開ける=地獄の門を開けるという行為が現代社会の闇を表現しており、スマホ依存を防ぐ…」とかなんとか言っていたがおそらく何も考えてはいまい。
どうやらこの地獄の門、原型石膏をもとに再現されたオリジナルらしい。
国立西洋美術館の展示物だが屋外にあるため無料で鑑賞できる。さすが国立、太っ腹だ。
地獄の門の鑑賞を終え、アメ横へ急ぐ。時刻は夕方だが、アメ横は昼からやっているのでもうすでに大盛況だろう。インターネットに書いてあった。

数あるアメ横の飲み屋で我々が選択したのがこちら、トロ函。

※トロ函の写真。

トロという響きだけで選択した。おそらく何かしらのトロが食べれるのだろう。店内はかなり混雑していたが、数分待つと席は空いた。
回転がいいらしい。星三つ確定の瞬間である。

テーブルに腰掛け、ハイボールとたこわさを2つずつ注文。
すると10秒もしないうちにモノが運ばれてきた。あまりのスピード感に一瞬うちのテーブルではないと言いそうになった。紛れもなくうちの子である。

※完食後の皿と杯の写真

注文から出てくる速度が異常なので面白がってたくさん頼んでいたらテーブルが埋まってしまった。バキュームモードに入り食事に集中する。
本丸である鮪のカマ焼きがくることには残念ながら我々は限の界となっていた。それでも食べるけど。

※残飯となった鮪の頭部の写真

酔いと胃のゲージがMAXを超えたところで店を出る。時計を見たらまだ18時前であった。どうやらアメ横精神と時の部屋だったらしい。

 千鳥足で駅前まで戻る。
少し寒くなった上野を歩きながら今日の回顧をしていた。
デートにおいて文化がどうとか、ハイソがどうとかはあまり関係ない。問題なのはそこに行くことで僕たちが面白くなれるかだ。そしてそれは場所に起因するものではなく僕たちの目線の問題なのだろう。

そもそもデートに行く目的は、どこに行くかではなく誰と行くかが大切なのだから。上野はその本質を思い出させてくれた。
また時が経ってから上野に行こう、その時は何から見ようか、そんな話をしながら帰路に着いた。

▲新宿ウォーキングデッド

新宿、それは魔都。
世界一の乗降者数を誇り、駅に一度入り込めば出ることはできない。
駅構内から出ることができなくなった人々は屍人と化し延々に駅をさまようことになる。屍人が多く出るのは金曜〜土曜にかけて、平均毎時400人がゾンビとなる。新宿の空気が悪いのは彼らの影響だ。

そんな状態が露見しているも関わらず、人はなぜ新宿へ赴くのか。
その謎を解明するために、我々一行は新宿に向かった。


新宿のいいところ、それは定期券内のところ。
そして手頃に買い物ができるのが新宿のいいところ、、、と普段ならばルミネにマルイ背伸びして伊勢丹などとお買い物エンドを迎える日曜日を過ごしてしまうが、今日はそうはいかない。迫り来るゾンビーズに対抗するべく、まずは歴戦の戦士御用達のここで腹ごしらえとなった。

デニー新宿中央公園

というか我々の御用達デニーズである。
確かにフードを制するものはデートを制すと平野紗季子氏もいっていた。新宿にはたくさんの美味しいフード屋もあるだろう。しかしそもそもデニーズはフードを制している以上、これに敵う選択肢を我々も持ち合わせていない。

デニーズ豪遊ルートのお写真
<<<<これが俺たちのトゥルーエンド>>>>

いつもの昼食を済ませた我々が次に赴いたのはすぐ横、東京都庁
ここにはいつでも誰でも入れる展望台が解放されている。敵を探るべく上空から戦況を把握、、、ではなく単にデニーズの横にあり腹ごしらえにちょうど良かったからだ。
展望台へ出る(展望台の写真)。
「昼に来ても何も面白くない」「電車から見る景色とさして変わらん」「せめて晴れてて欲しかった」彼女からスマッシュ攻撃が続く。
こちらはそれをしかと受け止め、「これも都民の血税によって見ることができる景色だよ」と返す。すると彼女は口角をわずかに右にあげ、「人がゴミのようだな」と放ち展望台を後にした。

続いて曇天の新宿御苑へ向かう。雨が降っていないだけマシだろう。
クリーンにカットされた芝生の上で多くのファミリーが各々の休日を過ごしている。我々も例に倣い大きめ5人用のレジャーシートを広げ、横になる。
本当は持ち込み禁止だが、こっそり懐に隠すことで目ざといガードマンを突破し、
今ここに顕現するアルコール飲料ストロングゼロ!(ストゼロの写真)
これが新宿の公式飲料ということで我々もそれに倣ってみた。
たまには質の悪い安酒も悪くない。新宿だし。
「この堕落を許してくれる感じが新宿にはあるね」と彼女がいう。
確かに、新宿は多様な価値を「放置」という形で許容してくれる感じがある。
新宿が人間を許してくれているように、我々も新宿を許さねばならないのかもしれない。
それから1時間弱ゴロゴロをしながら管を巻く。太陽が傾き、少し肌寒くなってきたタイミングで御苑の閉園時間となった。
いいね行政サービスっぽいね、などと変わらず管を巻きながら御苑を後にした。

新宿駅に向かって歩きながら、たどり着いたのはここ「新宿末広亭」。(末廣亭の写真)

今日のメインであり、僕のオススメ新宿スポット第一位。学生時代から暇さえあればここに向かい、彼女とのデートでもすでに何度か行っている。
今月の上席ではかの悪名名高い神田松之丞が高座に上がるとのことで今日のメインにここを据えた。
入り口で夜席のチケットを買う。中は日曜ということもあってか満員。
さすが日本一チケットが取れない講談師が出る七月上席。我々は入り口右手の上がりに入ってぽてっと座った。
僕の視界右手には彼女の後頭部、それ越しの高座。都庁からみる風景なんかより全然いいね!本当!
彼女は大きく口を開け笑っている。好きでしかない。松之丞の怪談を聴き終え、その後なんだかんだ2時間ほど寄席を観賞し末廣亭を出る。
最後までいても良かったが、さっと寄席を後にする感じも江戸を着こなしている感じがしていいでしょ、と適当なことをいう。

ストゼロもすっかり抜けて今宵のご飯処へ。
昼はデニーズで日常をしてしまったので、夜は少し普段と毛色が違う場所へ赴いてみた。

ざうおの写真)

ご覧の通りの様相。魚が釣れて、船があって、外人とカップルが多い。
非日常を求めている人しかいない、それがざうお
しかしざうおの難しいところは魚を釣りに行くタイミング。
頼めば出てくる酒はうまいし料理も良い。
ぶっちゃけ釣らないといけない魚なんかどうでもいい。
付き合いたてらしきカップルがお互いの距離感を測りながら魚を釣っているのをみている方がよっぽどつまみになるぜげへへ、、、。
「でもまあ、初デートでざうおはな〜」と彼女がいう。
曰く「魚臭くなるし」「水飛ぶし」「騒がしくて会話できないよ」とのこと。ふむふむ勉強になる…
いやあれ?え、ここダメだったの?言外でそう伝えたいの…?と不安な面持ちになる僕。
が目の前のブリを貪る彼女をみて(いや…そうでもないか…?と持ち直す)
ざうおはそういうところ。(思考放棄)

ざうおを後にする。お腹パンパン、お腹ペコペコヘリコプターの対義状態!とほろ酔いで歩く我々。

すると新宿駅へ登る坂の途中で我々夕闇通り探検隊は目を疑う!!!!屋台のラーメンが普通の交差点に店を出していた!!!(ここでお写真)
「「えーーーーーーーー!」」心の宮川大輔×2が首を小刻みにふりながらリアクションをとる。(宮川大輔のgif)
いやいやいや、これはやばい、何がやばいってお腹いっぱいなのにもう座って正油ラーメン頼んでいるもの。
すごい、すごいなあ〜これが東京かあ〜…彼女と1つのラーメンを二人で分けて食べる。
これあれだな、万が一別れたりしたら歌詞になりそうなエピソードだな、と思うが口には出さない。なんか怖いし。
すると「これなんかMOROHAとかが失恋ソングで歌いそうな出来事だね!」と彼女がいう。普通に言ったな。まあいいけど、確かにMOROHAっぽいし。。。ラーメンは無事完食できた。

もう無理なにも食べれない一週間は食べ物入らない光合成で生きる、とかなんとか言っていると間も無く駅にたどり着いた。

時間はもう23時。駅を見上げる。
明日の9時(すでに10時間を切っている)には死んだ顔をしてこの中にいるのだろう。それでもいいと思うような夜を過ごすことができたからまあよしとしよう。この1日のために5人は屍人になろう。僕らは屍人から人間を行ったり来たりして生きている。人間のうちに幸せを噛み締めよう。

新宿は魔都だが、魔都にしかない魅力をしっかりと直視できた休日でしたとさ。煮浸し煮浸し。

●メゾンド丸の内トーキョー

毎週末のように出かけていた夏が終わり、秋が始まっている。
肌寒さと引き換えに情緒が漂う秋の空の下、今週もまた出かけることにした。
「場所は知っているけど、行ったことがない場所」というオーダーを洗面台の方から事前にいただいているので、それに則って提案をする。
無事提案が可決され、我々が本日向かう先は東京、丸ノ内となった。

東京に住んでいる。丸ノ内線も使っている。が、案外行くことはないのが、東京駅丸ノ内。その理由は中央線を降りて東京駅南口を出ればおのずとわかる。
見渡す限りのビルビルビル。大きなビルは景観として荘厳で楽しいが、その実態がわからない。
大仰な入り口のそれはパンピーが入っていいものなのか、割と怒られるものなのか、その判断が難しい。結局として東京を避けて皇居方面へ行ってしまうのが我々の常だ。
今日こそその殻をぶち割って都民のシティボーイ&ガールとして胸を張りたい。

*(乱立するビルの写真)

強い気持ちで我々が初めに取り組んだのはいつも恒例のショッピング。丸の内近郊にはとにかくショッピングビルが乱立している。
丸ビル新丸ビルKITTEにオアゾ。どれも見た目はオフィスビルディングのようだが、中に入ればあら不思議、洗練されたルミネ・ららぽーとのようなものだ。
東京駅を中心としてぐるりとこれらのショッピング施設が乱立しているのが東京駅丸の内で、正直それで完結しているのが東京駅丸の内だ。
熱い気持ちを落ち着かせてKITTEに入る。
KITTEは5階建ての建物で、そのうち殆どが雑貨屋(セレクトショップ)で構成されている。
「ついつい無駄遣いをしてしまういい大人選手権」日本代表の僕としてはどうしても財布の紐がゆるゆるになってしまう弱点的なオソロシアスポットなのだ。
ちなみに今回の購買では「ケロヨン桶」「白檀の香りのお線香」「業務用スポンジ」シメて一万円を購入した。THE SHOP、恐しい店である……。

*(THE SHOPの看板の写真)

さてそんな浪費活動を無事終えて一階に降りると、耳馴染みはあるけど滅多にお目にかかれない三文字が目入った。
千疋屋
何と神々しいことか、たった三文字の響きだけで庶民には手が届かない高級感と甘美なる贅沢な「何か」が用意されている空間であることがわかる。
そう、KITTEには超高級フルーツパーラー「千疋屋」のカフェがある。
当然入った。そして当然コレである。

*(フルーツパフェのの写真の数々)

輝かしい果物、それを食す、これが人間の業である。
その業を行う前に欠かせない「礼拝の儀」(いただきます)を済ませてからあとはもう一心不乱に食す。いつもは愛らしい彼女もこの時ばかりは獣と化していた。

*(人型の何かがパフェを貪る写真)

身も心もテカテカの我々が次に向かったビルは丸善丸の内本店だ。
あの実は元祖ハヤシライス発祥をしたことでお馴染み丸善ジュンク堂の本店は丸の内のオアゾにある。
ちなみにこの書店、僕は仕事でお世話になっていたこともあるので、マスクを着用しての来店。
これが世間で有名なお忍び丸善スタイルである。彼女はそんな僕の健気な努力を無視するかのようにマスクを剥ぎ取ってくるので、比較的殺伐とした本屋デートとなった。
四面楚歌な状態の中二人揃って紙袋がパンパンになるほどの書籍を購入した。彼女チョイスの『それがやれる人の生きかた』という本を買ってはいるが、恐らく読まないだろう。

*(重たい紙袋と真っ赤になった手のひらの写真)

その後、オアゾをプラプラし、買い物も飽きたので外へ出る。ふと顔をあげると暗がりがかかった丸の内をライトアップされた東京駅が照らす。
さすが首都東京を名乗る駅だけはある。その立派な面持ちに二人「大したもんだ」と賞賛の拍手を送った。

*(ライトアップされた駅の写真)

しばらく植え込みに座って東京駅を鑑賞しながらの談笑に花がさく。
延々に続きそうなその時間の終わりを告げたのはどこからともなく聞こえてきた腹の虫の悲鳴だった。
甘美なるパフェも、我々にかかれば消化も一瞬。そそくさと東京駅鑑賞を離れ本日のディナー探しへ。そしてたどり着くのは、本日手をつけていないビルディング、そう丸ビル。
丸ノ内を代表するハイソな商業ビルは、正直紳士淑女に未だ至れない未熟な我々には少しお早いが、逆に丸ビルディナーを済ませたらもうそれは紳士淑女なのでは?という天才的ひらめきから勢い込んで乗り込む。
妙に多い曲がり角に苦しみながらも、何とかレストラン街へたどり着き、さて行くぞとここへ入った。

(※Marunouchi Cafe × WIRED CAFÉの写真)

結局のWIRED CAFÉ!無念!
我々の貧相なお財布では、丸ビルのハイソレストランには太刀打ちができなかったのである……。
でも美味しかった、ありがとうWIRED CAFÉ、ずっと好きだよWIRED CAFÉ。

と、そんなこんなでちゃんと丸一日を丸ノ内で過ごすことに成功した。だが、どうしても背伸びした感が拭えない。
特にディナーでは丸ノ内に完敗だった(主にお財布が)。
次こそ丸の内に乾杯、と言えるようにお仕事頑張るぞい!と強く胸に刻んで、帰りがけのニューデイズストロングゼロロング缶を買って帰宅。

東京都に住んでいても、東京には住んでいない。丸の内を住んでいるように回遊できてこそ、真の都民として税を収められる。
高めの目標を設定して、今日のところはすごすご退散、そんなお休み。

◆日比谷オールコレクト

天気は概ね晴れ

夏休みが終わってしまったのが悔しくて、「俺たちの夏はこれからだ!」とか打ち切り漫画のようなことを言っている。過ぎ行く夏に追いつくために今日は2人揃ってスニーカーで外へ出た。
行き先は日比谷だ。


うちから日比谷へはアクセスが悪い。
だがそこはやはり港区、三歩歩けば何かしらの駅にぶち当たる立地の素晴らしさ。
最速のルートをネットでサーフィンした結果、我々が降り立つ駅はJR山手線有楽町駅となった。有楽町駅B2出口を抜けると、幅の広い道に出る。どことなく表参道っぽい。

*(道の写真)

日比谷の良いところ第4位は道が広いところ。第3位は空が高いところで、あとは忘れた。

駅を抜け出し緑の多い場所に向かって歩く。毎度のごとく地図は見ない。見れないのではなく、見ない。上流階級の我々なので。とかいっているとすぐ目的地に着いた。

*(日比谷公園入り口の写真)

日比谷公園では毎週何かしらイベントが行われている。つまり悩んだら日比谷公園までくれば困らず、日比谷公園に住めれば年がら年中遊べるというわけだ。

現在行われているのは「ドイツオクトーバーフフェスト」ドイツの食べ物(ほぼソーセージのみ)とドイツの飲み物(ほぼビールのみ)を可愛い女の子が提供してくれ、5回行けばドイツ人国籍が与えられるというアレ。

実際もう5年くらいは来ているイベントなので、ドイツ人ということになっている我々は2人揃って「ふーん、今年はこういう感じね」とか「あー、ミュンヘンの香りするわー」なんていいつつ座り場所を探してウロウロ。オクトーバーフェストは座ればさえすれば勝ち確というガバガバイベントのため、当然血眼で空いているベンチを探さねばならない。

途中この世で1番巨大と思われるビールジョッキに並々ビールを注ぎ、割高なアルコールを摂取していると彼女がテーブルを片付けて離席しようとしているカップルに声をかけて無事本部ベースを確保。その称賛極まる行動の勲章として僕がソーセージとプレッツェルを奢ることになった。苦しゅうない。

*(奢ったとされるソーセージとプレッツェル)

ビール、ソーセージ、ビール、ソーセージ、水、ビール、ビール、ソーセージの順でドイツを噛み締めていると長居をし過ぎてしまった。そろそろ離脱を決め込もうかとテーブル中の飲食物を吸引し席を立とうとすると背の高い男性に「ここ良いですか」と声をかけられた。我々はすっかりドイツ人なのでジョッキを掲げて「もちろん!」と胸を張ったら怪訝な顔をされた。この場合正しいのは我々である。

*(掲げたジョッキ)

座席リザーブリサイクルも済ませて、日比谷公園から無事釈放。 
酔拳ばりの千鳥足で我々が向かった先は最近リニューアルされた「日比谷シャンテ」。

*(シャンテ外観の写真)

そう、シャンテでおシャンテに決めちまおう、という腹づもりな訳である。

シャンテ1Fには質の良い結婚式でもらえる引き出物ランキング第1位のバームクーヘンでお馴染みキハチのカフェがある。
ここで優雅なアフタヌーンティーと勤しむのが我々の目的であった。が、想像以上の激混み。皆考えることが同じなのか、「行列よ夢、幻であれ!」と願ったものの叶うことはなく人はそのまま人だった。まあしょうがない、椅子もあるし酔い覚ましも兼ねて並ぼうかとぼやぼやしていると20分ほどであっさり店内へ。
二人がけのテーブルに案内され、さっと僕がトイレ側に座る。どうだろう、我ながらこういうところが紳士だと思っている。
彼女はそんな配慮も意に介さずメニューを決めにかかっている。
どう考えても満腹の我々であり、この後のディナーのことを考えるとここで重めを攻めたくないものだが。。。

*(フルーツサンドの写真)
*(スフレ的な何かの写真)

このザマである。でも我々は許される、なぜならオトナだから。そしてカロリーは美味しさの単位だ。
流石にお酒は控えてコーヒーとアイスティーにしたので、トータルでゼロカロリーでもある。いや、むしろマイだ。

しばらくのもぐもぐタイム。ここで談笑をしないところが我々のいいところ。
オトナにとって食事とは地球との「対話」。茶化してしまっては野暮なのだ。
しばしの「対話」を終え、まさにティーブレイク。
エモいって言葉はエモくないとか、借りぐらしが丁寧な生活の集大成とか、無印のバターチキンカレーで店が開けるとかそんな話をしていたらすっかり日も暮れ始めて来た。これはいかん夏が終わってしまうと席をたちシャンテ内をぐーるぐる。買い物をチョチョイと終え、シャンテを後にする。

シャンテを出て徒歩3歩で次の目的地、新進気鋭のニューカマー「日比谷ミッドタウン」に到着する。
ここのメインミッションは先に予約済みである映画を鑑賞することだ。先に予約を済ませてある、というところがかなりスマートポイントが高い。スマートさでいえばイギリス紳士が女性の涙を清潔なハンケチで拭うほどのスマートさに匹敵する。スマート2万点だ。

映画上映まで程よく時間が空いているのでミッドタウン探検に出るかと3Fをうろいていると立ち飲み屋がある。
ハイソな商業施設に立ち飲み屋があることに脳がバグりかけていたため、思考をしないまま脊髄反射でのれんを潜ってしまった。
いわゆる割烹的な立ち位置の飲み屋らしい。

*(三ぶんの写真)

小料理屋なので当たり前にお通しが出て来たのが苦しい。もう井の中がドイツやらイタリアやらジャポンやら多国籍が過ぎた。
しかしオトナなのできっちり味わう、そしてあっさりしていて美味しい。日本酒が加速する。
うおーこれはいかん、と彼女が横で唸っている。彼女は起立しながら酒を飲むと普段の3倍の速さでダメになるのである。これがシャアだったら赤い彗星に乗せて宇宙戦争に参戦であるが一般市民であるため、早めにお冷でクールダウン。しばし静粛に、アルコール分解に集中しているようであった。
そうこうしていると映画までの猶予がなくなってくる。サクッと会計を済ませ(スマート4万点だ)4FのTOHOシネマズへ。
満を持してオーシャンズ8を鑑賞してみせた。(アンハサウェイが至高の極みでした。)

劇場を出ると外はもう真っ暗、夜更けが迫って来ていた。
今日ももう終わる、非常に満ちた1日ではあったが、まだ終わりにはさせたくない。
彼女とぽてぽてと日比谷の街を有楽町に向かって歩く。道路看板をみて、少し折れれば銀座でたどり着くことを知った。
これはもう宵闇通り探検隊としては行ってみるしかない。終電も調べていなかったが東京都民は課金でタクシーが使える。気を大きくして銀座方面へ歩みを進めた。

だが結果として、我々が銀座へたどり着くことはない。それはなぜか、これを見つけてしまったからだ。

*(東宝ダンスホールの入り口)

ワクワクが止まらない。強いやつと出会った時の悟空もこんな感じなのだろうか。
とりあえず入ってみた。

*(ダンスホール内の開けたフロアの写真)

あーこれはもうしょうがない。こうなってしまったら踊るしかない。だってダンスホールだし。
休日の夜でなのか、いつもこうなのか、人もまばらなダンスホールをスニーカーで2人かける。
いつか観た古い映画のダンスシーンを真似して観たり、片膝ついてダンスはいかが?とか言ってみたり。
初めてドッグランに来た大型犬よりもはしゃいだ。それはもうしょうがないくらいはしゃいだ。ダンスホールだもの。

*(ダンスホールのなんか素敵な写真)

しかし肺活量は酔っ払い20代半ばの人間のそれ、正味30分が限界で立てなくなった。ダンスホールを滑り転がる時間が続く。

*(ダンスホールを転がってブレブレになっている写真)

お互い心に白旗が上がり、お店の人に頭を下げて退室した。

外へ出る。
頭も心も体もぽっかぽかになった。蒸し暑い9月の天気には適していない。
これ以上外気に晒されるのも勘弁ということで、銀座への殴り込みはまた今度ということにして今日は閉店ガラガラにすることなった。

来た道を戻り、有楽町駅へ戻る。終電を調べるとちょうど乗れそうな時間だった。
オトナとして胸を張れる、非常に良い休日のワンシーン。

軽い気持ちで来た日比谷にはなんでもかんでもあった。
そしてそれが近い距離でぎゅっとあったのも素晴らしかった。日比谷の良いところランキングを更新しなければならない。
これほどまでに綺麗に駒を進められたのも、日比谷の完成度が高いからだろう。

日比谷はすべてを解消してくれる。日比谷がすべてを解消してくれた。すごく助かるありがとう日比谷。